白山杉(岩手県花巻市大迫町内川目久出内)

樹  高 約50m
幹  周 11.5m以上(H1 現地案内板)
撮  影 H16年6月

 案内板によると、環境庁の調査で「県内最大級」であるという。「級」と歯切れが悪いのは、大船渡市三陸町の「大王杉(11.6m)」や北上市和賀町の「和賀仙人姥杉(11.5m)」もあるからだろうか。
 それにしても10mを超える杉はなかなかあるものではなく、岩手県では最も大きな杉なのかもしれない。
 巨大な木には伝説も生まれる。


この杉には「かさっこの神様」が宿る伝説があり、かさっこ(疱瘡)ができたときには、ゆりかごをつくって奉納すると治るといわれていた。また、殿様と醜いお姫様にまつわる悲しい伝説なども伝わる地域のシンボル的な名木となっている。(大迫町教育委員会 案内板のまま)

 醜いお姫様のお話も気になるところだが、「かさ(笠・瘡)神(疱瘡神)」をみつけたのは収穫だった。

 ひと昔前までは、整形や治療技術も確立されておらず、火傷や病による傷痕がある人はちまたにあふれていた。
 そうした病の代表が「天然痘」である。たくさんの生命を奪い、かろうじて助かった人にも一生残るあばたを残すこの病と、人類は長きに渡り戦ってついに撲滅させることに成功した。
 昭和40年代以前に生まれた者ならば、予防接種の注射痕などが肩などに残っているはずである。瘡が残るので、秋田では「痘痕(いも)っこ」と呼ばれた。
 事前に小さく伝染(うつ)すことで、大きな感染にかからない免疫を得るのだが、天然痘じたいが世界で撲滅されたため、1976年以降は予防接種そのものが無くなった。
 栄養バランスの高い食事と予防によって、他にも大きな痕を残すような病はこの数十年で激減した。

 予防接種が行われる以前、顔や手などにも大きな病痕のある人がいくらでもいた時代、人々は疱瘡神に治癒を願った。少しでも霊験があるとうわさを聞くと、遠方にまで足を伸ばした。
 この長命な杉の生命力が「痘痕(いも)」や「瘡」にも打ち勝つと信じられたのだろうか。それともけして美しくはなくとも価値のある生き様を学んだのだろうか。

 白山神社は全国に数多く、加賀の白山神社を本社としているが、今まで訪れた各地の社で祀られている神の7割は菊理媛神(キクリヒメ・ククリヒメ)、それ以外はイザナギまたはイザナミであった。

 「子安地蔵尊かつら」でもふれた、イザナギの黄泉の国行きの場面。黄泉比良坂で、醜い姿になってしまったイザナミと夫イザナギを和解させる(別れを成立させた?)ワンシーンにだけ登場する、あの世とこの世の境にいる女神が菊理媛神である。
 このとき、女神はなにごとかをイザナギに告げるのであるが、この言葉によってイザナギは得心し彼女をほめたという。なんと言ったのかについては触れられていない。

 同じ北陸の永平寺を本山とする禅宗「曹洞宗」の寺院には、寺のどこかに白山妙理権現として祀られていることが多い。この神はイザナギであるともいわれるが、神仏混交の時代のことゆえよくわからない。

 白山修験の白山三所権現(白山妙理権現、大行事権現、大汝権現)のうち「大行寺権現」は日吉大社の客神であるとも、主神である大山咋の父、大年神であるともいわれるようだが、客人(まろうど)神というものの多くは、手・足・耳など身体の部位などを癒やす医術神的にまつられていることが多い謎の神で、同様に氷川神社などで客人神としてまつられたりするアラハバキ神などの扱いにも似ている。

 話はそれたが、この白山杉にも「醜い姫」の伝説があるという。この「醜い」は不美人というより疱瘡などの病に冒されたことによる醜さだったのだろうか。
 ここの白山神社の菊理媛も、イザナギにそうしたように、この異形の杉の生きざまを見せて、美しさよりも価値のあるものを、訪れる人たちに教え、癒やし続けてきたのだろうか。
 

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